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東京地方裁判所 昭和54年(ワ)3019号 判決 1981年8月27日

原告

加藤忠明

被告

安全興業株式会社

ほか一名

主文

1  原告の請求はいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、各自、原告に対し、金一九一六万六〇八三円及びこれに対する被告安全興業株式会社につき昭和五四年四月一五日より、被告根本梅雄につき同年七月一三日より支払ずみに至るまで、年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は、被告らの負担とする。

3  仮執行の宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  事故の発生(以下、本件事故という。)

(一) 日時 昭和五一年四月二九日午前三時四〇分過ぎころ。

(二) 場所 東京都豊島区巣鴨五丁目一一番二号先路上。

(三) 加害車 並通乗用自動車(練馬五五い八〇六四号、タクシー、以下、単に本件タクシーという。)

右運転者 被告根本梅雄(以下、被告根本という。)

(四) 被害者(乗客) 原告

(五) 態様 自動車からの転落。

2  責任原因

(一) 被告根本は、原告から自己の非礼を糺されたことに立腹し、降車しようとした原告を妨げてタクシー後部左側自動開閉バアーを突然閉めて急発進し、暫し疾走した後、被告根本の右運転操作による遠心力により後部客席の前記左側自動ドアーに押しつけられていた原告を同被告は、右自動ドアをいきなり開いて前記事故現場に放り出して転落させた。

(二) 被告安全興業株式会社は、自己の従業員である被告根本が業務の執行中に前項の加害行為により本件事故を発生させたのであるから、使用者として損害賠償義務がある。

3  権利の侵害

(一) 原告は、本件事故により外傷性脳内血腫、脳挫傷の傷害を受けた。

(二) 原告は、右受傷により、訴外東京消防庁滝野川消防署救急隊により、昭和五一年四月二九日午前四時三〇分頃、豊島区南大塚三丁目九番一一号所在の訴外医療法人東弘会山川病院に収容されたが、昏睡状態に陥つたため、同日午後、訴外日本大学医学部付属板橋病院に運ばれ入院し、四時間にわたる緊急手術を受け、同年六月一二日まで入院加療の後も通院加療をし、さらに、術後の頭蓋骨欠損のため、昭和五三年一二月一二日、前記病院に再入院し同年同月二一日、頭蓋形成手術を行い、同五四年一月一六日退院したが、手術に伴う輸血後肝炎により、同年三月一二日、三度同病院に入院し、治療を受け、現在に至つている。

4  損害

(一) 治療費 金五六万五〇八九円

原告は、昭和五一年四月二九日から同年六月一二日までの間の訴外日大板橋病院における入院治療費用合計金一八八万三六三〇円のうち、国民健康保険扱を受けて免除を受けた金一三一万八五四一円を控除した残金五六万五〇八九円を支出した。

(二) 入院雑費 金一〇万一〇〇〇円

原告は、前記病院入院中、入院雑費一日当り金一〇〇〇円にて計算し、昭和五四年三月三一日までの通算一〇一日間の右雑費の合計金一〇万一〇〇〇円の支払を余儀なくされた。

(三) 逸失利益 金七〇〇万円

原告は、本件受傷時まで、訴外旭建材に勤務し、月収金二〇万円を得ていたところ、本件受傷により、昭和五一年五月一日より同五四年三月末日迄の間、全く稼働できず、右期間中の収入を失い、この間に被つた損害の合計は金七〇〇万円である。

(四) 慰藉料 金一〇〇〇万円

原告は、本件事故により前記のような重傷を負い一命はとりとめたものの後遺症に悩まされる外、頭蓋骨欠損による頭部への外力が加わつた場合の生命の危険におびえる状況にあり、被告根本の悪質な加害行為態様をも考えるとき、原告への慰藉料としては金一〇〇〇万円を下ることはない。

(五) 弁護士費用 金一五〇万円

原告は、原告代理人に本件訴訟を委託し、弁護士費用として金二六五万円を支払うことを約したが、少くともそのうち金一五〇万円は本件による損害である。

5  結論

よつて、原告は被告らに対し各自損害賠償金一九一六万六〇八三円とこれに対する被告安全興業株式会社につき訴状送達の日の翌日である昭和五四年四月一五日から、被告根本につき同じく同年七月一三日から各支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の各支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因第1項の事実中、(一)ないし(四)は認め、(五)は否認。

2(一)  同第2項(一)の事実は否認。原告はタクシーに乗車中、被告根本に対し罵詈雑言を浴せたうえ、目的地に着いてからも降車せずに、かえつて同被告に掴み掛つてきたので止むを得ず非常灯をつけドアーを閉めて近くの交番に赴く途中、(この間、原告は同被告に暴行を繰り返し加えた。)原告はドアーを開け身体を半分位乗り出し、危険を察知した被告根本が急制動の措置をとるも停止前に車外に飛び出していつた。したがつて、原告の受傷につき被告根本に故意過失はなく、原告の自損行為というべきである。

(二)  同項(二)の事実は争う。

3  同第3項(一)(二)の各事実は不知。

4  同第4項(一)ないし(五)は不知ないし争う。

第三証拠〔略〕

理由

一  請求原因第1項(一)ないし(四)の各事実は当事者間に争いがない。

二  前項認定の事実及び成立に争いのない甲第一号証、同第二号証の一ないし九、同第三号証の一、同乙第一号証の一ないし九、同第二号証の一ないし五、同第三号証の一ないし七、同第四号証の一ないし四、同第五号証の一ないし六、原告本人尋問の結果及び被告根本梅雄本人尋問の結果を総合すると、原告は、前記事故発生日時ころ、被告根本の運転する本件タクシーの後部座席の左側ドアーから前記豊島区巣鴨五丁目一一番二号先道路上に落ちて頭蓋骨骨折等の傷害を受けたことが認められ、他に右認定に反する証拠はない。しかし、原告は、被告根本が原告を後部客席左側自動ドアーに押しつけるように運転操作したうえ右ドアーを開け放つて原告を車外に放り出して転落受傷させたと主張するが、これに沿う原告本人尋問の結果も前掲乙号各証及び成立に争いのない乙第六号証の一ないし四と比照するとき不整合点も見られ、未だ右尋問結果だけでその主張事実を認めるに足りず、他にこれを認めるに足る証拠は全くない。

三  以上のとおりであるから、原告の被告らに対する本訴各請求はその余の点を判断するまでもなく理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 稲田龍樹)

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